ドイツ最高裁がついに「第三の性」を認めた事情 性別は自分で決めて取得する時代に?
出生届には性別を書かなければならない。当たり前のことのようだが、稀に、それが当たり前でない時がある。



性を決める染色体は、男性はXY、女性はXXの組み合わせだが、ときにXXYとか、XXXYなどという変異がある。とはいえ、本人も周りもそれにまったく気づかず一生を送ることもあれば、一方で、出生時、はっきりと形状に表れるケースもあるという。



男と女の判別ができないと、病院も困るが、親はもっと困る。遅くとも出生届の提出時には、どちらかに決定しなければならないからだ。



そこで、ドイツでは2013年から、出生時に性別が判然としない場合は、出生届の性別欄を空欄にすることが認められている。しかし、これでは保留、あるいは無性ということになる。



染色体が証明する「中間性」



ヴァニア(27歳)は女の子だった。親が悩んで届けたわけではない。しかし、すでに幼稚園で、自分を女の子ではないと感じたという。戸籍の性別と自認の性別が合わなくなっていたわけだ。



思春期になっても、他の女の子のように胸が膨らむこともなかった。病院で調べたら、ヴァニアの性染色体はXだけで、もう一つが欠けていることがわかった。そこで女性ホルモンを投与されたが、自分の性に対する違和感はさらに大きくなるだけだった。



そこで、ヴァニアは男になることを決断する。女性ホルモンがテストステロン(男性ホルモン)に変えられた。「今の姿の方が落ち着く」とヴァニア。髭を蓄えた「彼」は男性だ。しかし、完全に男性であると感じているわけでもなく、「ちょうどその中間の感じ」なのだそうだ。よく見ると、わずかに胸の膨らみも見える。



そうするうちに、ヴァニアは次第に自分の置かれている立場に納得できなくなった。染色体に現れているように、自分は男性でも女性でもない。つまり、性別は2種類だけではないのだ。



だったら、男性でも女性でもない性が存在するということを、法律でちゃんと認めるべきではないか。ヴァニアは裁判所にそれを訴えた。しかし、地方裁判所でも州の最高裁でも訴えは退けられた。そこで憲法裁判所(国の最高裁に相当)に上告した。



ドイツには、ヴァニアのように性染色体に異常を持っている人が、推定で8万人いると第一放送のオンラインニュースは報じる。1000人に一人だ(ディ・ツァイト紙では10万人、シュピーゲル・オンラインでは8縲?16万人と報道)。要するに、XX、XYという組み合わせ以外の性染色体を持つ人の数だ。



11月8日、憲法裁判所はヴァニアの訴えを認める判決を下した。それによれば、原告(ヴァニア)は性別がないわけではなく、「性」を自認している。ただ、その自認した性が、男性の範疇にも女性の範疇にも入らない「第三の性」である。第三の性が存在することは染色体が証明している。



だから、出生届には第三の性が付け加えられなければならない。そうでなければ、性による差別となる。つまり、現行法のままでは、基本法(憲法に相当)が保証する人格権や、基本的人権に抵触する。



そこで立法機関は、2018年の終わりまでに、出生届の際、男性、女性とならぶ、第三の性を整備しなければならなくなった。さらに、その第三の性は、inter(中間)、divers(多様)など、肯定的な名称でなくてはならない。

中間性を法制化する上での課題



差別問題を扱う国の機関は、今回の最高裁の決定を「歴史的」であると高く評価している。しかし、まだまだ物足りないらしく、今後、出生届のみならず、広範に第三の性の整備を進めるため、「性の多様化法」といったような法律を制定することを検討しているらしい。



また、アムネスティー・インターナショナルや緑の党も、この判決を絶賛しており、聞くところによると、性別という項を出生届から無くしてしまうという意見もあるらしい。



一方、反対意見を表明したのが、カトリック教会と、全国の戸籍係の役人連盟。彼らは、これら一連の改訂により、何が改善されるのかが不明だと言っている。



政府は今のところコメントを控えているが、実は、内務省と家庭相で意見が分かれているらしい(シュピーゲル・オンライン)。「この決定は、遅すぎるくらいであった」として、SPDの家庭大臣が判決を手放しで大歓迎しているのに対し、内務省は懐疑的。しかも、それによる役所業務の混乱を懸念しているという。



内務省の心配は当然のことだ。これまでの社会は、すでに何千年も、性が2種類であるということで作り上げられてきたのだから、それを変えるとすれば、影響は計り知れないものになる。ほとんどすべての法律が改訂されなければならない。



不明な点は、他にもたくさんある。出生のとき中間性として届けられた子供は、いつまでそのままでいられるのだろう? あるいは、大人になって、中間性など嫌だと思えば、それを男や女に変更できるのか? あるいは、その反対に、今、男や女として登録されている人が、中間性に変えることもできるのか? そのためには染色体の検査が必要なのだろうか?



さらに、中間性に対する差別は起きないのか? 性染色体に異常があると子供はできないというから、結婚前に、相手がどんな性染色体を持っているかが、気になるようになる可能性もある。



また、戸籍やパスポートはどうなるのか? 性別の記載のないパスポート、あるいは、中間性と記載されたパスポートは、世界の他の国々が認めてくれるのか?



年金は? 税金は? 医療は? 保険は? 教育は? オリンピックなど、スポーツはどうなるのか? 中間性を法制化しようとしているのは、EUでは今のところドイツだけなので、すべてが五里霧中だ。



ドイツでは今年の10月より、結婚は男女ではなく、二人の人間の間でなされるものになった。今では同性同士の結婚は、これまでの男女の結婚と、すべての権利義務が同じだ。



今回の判決をこれと合わせて考えれば、結婚というものはすでに生殖とは無関係だし、性は、将来ますます意味を失っていくようだ。ひょっとするとそのうち、性別は、欲しい人だけが自分で決めて、取得するようになるかもしれない。



未来の社会がどんなふうになるのか、私には想像が付かないが、かなりユニセックスの世界になることだけは、間違いがなさそうだ。
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