「“七つ屋”の七瀬」は、質店の天才鑑定士。ドラマ『新宿セブン』の主人公で、KAT-TUNの上田竜也が演じている。
舞台は全ての欲を飲み込む街・新宿歌舞伎町。妖しく危険に満ちたこの街で、七瀬はあらゆるものの“ホンモノ”を見抜く能力で一目置かれている。そして相棒・大野健太は中村倫也。ごく普通の穏やかな青年だが、七瀬の周りで起こる刺激的な日常に怯(おび)えつつも、彼の鑑定眼を尊敬している。この二人の凸凹コンビのところに、日々訳ありの依頼人がやって来る。その鑑定物から依頼人の葛藤や鑑定依頼の理由などに迫っていくミステリー要素がちりばめられたヒューマンストーリー。原作は観月昴(作)・奥道則(画)による漫画である。
■ドラマの見どころ
このドラマは、テレビ東京「ドラマ24」の枠で放送されている。
低予算なれどユニークで、コアなファンを集める“迷作”が多い。『モテキ』『マジすか学園』『勇者ヨシヒコシリーズ』『孤独のグルメ』『バイプレイヤーズ』『下北沢ダイハード』など話題作がめじろ押しだった。
その枠で、今回もテレ東の自由奔放な挑戦は留まるところを知らない。
偽造のブランド品・麻薬・風俗の女・賭け事・ゲイのSEX・衝撃的な暴力など、アウトローなシーンが次々と展開する。
こんな「はっきり言って18歳未満は……」というレッテルが貼られるドラマに、ジャニーズのアイドル・上田竜也が挑戦して来た。深夜ドラマでありながら、コアなファンだけでなく視聴率も狙っている。制作陣の強気な姿勢がうかがえる。
その上田竜也は、キリリとした美顔に中身は結構おちゃめ、というクールな見た目とのギャップで、女性ファンをとりこにしている。今回は従来の演技からさらに幅を広げて、天才鑑定士というヒトクセもフタクセもある役に挑戦している。
しかも上田の役になり切って見せる気迫は、「こういう面もあるのか」と思わせる。内に秘めたバイオレンスなキャラクターと正義を併せ持つ力強さからは、ストイックな役者魂が伝わってくる。
相棒役の中村倫也は、ナチュラルで純粋な性格であるがゆえに七瀬を引き立て、本当の新宿・歌舞伎町を知らない一般視聴者の気持ちを代弁している。このドラマの世界に入り込むための、見事なガイド役といえよう。
さらに突然七瀬質屋に「自分を鑑定してほしい」と現れた謎の少女・水月華役を大野いと。主人公の行きつけの餃子屋の店主役を夏木マリ。その餃子屋のアルバイト店員役を家入レオが演じるなど、深夜枠なのに豪華キャストが勢揃(せいぞろ)いしている点も見逃せない。
特に、今作で女優デビューを果たしたシンガーソングライターの家入レオは、今まで数々のドラマの主題歌を担当するなどアーティストとしてのイメージが強かったが、演技初挑戦とは思えないそのナチュラルな演技にも注目が集まっている。
■第5話は心憎いストーリー
第5話も『新宿セブン』ワールド全開だが、今回はちょっと人情噺(にんじょうばなし)の趣で、心憎い展開となっている。
質屋にはギャンブルで金を使い果たし、質入れをする客も多い。年金暮らしの“じっちゃん”・尾上正昭(斎藤洋介)もそのひとり。
ある日、腕時計を預けに尾上がやって来る。その時計は古びているが七瀬(上田竜也)は価値があることを一瞬で見抜き、尾上もまた大切にしている時計だった。ところがその日の夕方、尾上が車に轢(ひ)かれてしまった。七瀬らが病院に駆けつけると昏睡(こんすい)状態に陥っていた。ここから七瀬・大野・水月らが、事件の真相を解決していく。
ストーリーから見えてくるのは、人にはそれぞれお金に代えられない大切なモノがあるという点。
それを七瀬は、「モノには汗が、涙も染み込む。思いが宿る」というセリフに込めた。尾上が“七つ屋”で何度も出し入れしていた時計のことである。「30年勤続記念」と刻印された時計で、ボロボロに見えても何十年も汗かいた証の品だったのである。
そして事件の鍵はこの時計が握り、しかも尾上の亡くなった妻との関係が凝縮されていたことが浮かび上がる。今回はエロや暴力などがちりばめられる中で、人情噺(にんじょうばなし)がひと際光った1話と言えよう。
原作を知らない視聴者からは、けんかと鑑定がメインのように思われがちな作品だ。
アウトローな主人公やその周りの人物には謎が多く、それ故に“怖いもの見たさ”のような魅力がある。しかも回を追うごとにその謎が深まっていく点は、物語のアクセントとなり視聴者を惹(ひ)きつけて止まない。
また鑑定品を本物かどうか見極める際の要点や、本格的なアクションシーンが満載な点も期待を裏切らない。“多国籍感”漂う映像作りは、男女共に楽しめるよう工夫もされている。
特に今回は、番組冒頭が中国のどこかで、中国語の歌で始まり、七瀬が“七瀬”と名乗るようになった経緯が紹介される。そして番組エンディングは、第5話のゲスト・尾上の記憶の問題から、記憶を失った水月華(大野いと)が一部記憶を取り戻し、中国の歌を口ずさむ。これが次回以降の大きなカギとなることが暗示されて終わる。
心憎い構成と言わざるを得ない。謎もまだまだ明かされていない。今後の展開から目が離せない。