東京都渋谷区が発行した「パートナーシップ証明書」の認定第一号となった増原裕子さんと東小雪さん。苦難を一緒に乗り越えたことで、恋人から「家族」になれた二人だからこそ、伝えたいこと、そして新たな挑戦があるという。
※「性虐待にカミングアウト…同性カップルが乗り越えてきた苦難」よりつづく
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――13年に東京ディズニーシーで挙げた結婚式はニュースでも大きく取り上げられた。社会に向けてカミングアウトすることに抵抗はなかったのだろうか?
増:お互い「社会に対してアクションをしていこう!」というときに出会ったから問題なかったです。
東:志が一緒だったから。
増:いまでも「同性愛は趣味だ」「子どもに悪影響がある」とか言ってくる人も時々います。昔だったら傷ついていたかもしれないけれど、そういう意見は間違っているし、気にしません。
東:それよりも私たちのニュースをきっかけに「親にカミングアウトできた」「勇気をもらった」という声が多いものね。
増:いちいち周りを気にしていたら、こんなことやっていられないです。静かに暮らしていたほうが断然いいじゃないですか。でも黙っていると、存在を「ないこと」にされてしまう。それがこれまでの私たちだったんです。
東:社会の制度の中にも組み込まれていないし、テレビの中にしかいない人と思われている。「あなたの隣にもいるんですよ」って発信してるんです。
――二人が第1号となった渋谷区のパートナーシップ証明書は、東京都世田谷区や兵庫県宝塚市や三重県伊賀市などにも広がっている。
東:どんどん世の中が変わってきていると感じます。いまの20代には「自分がゲイだということに悩んだことがない」っていう男の子もいたりしますよ。
増:一部にはね。
東:ただ日本では同性婚が認められていないので、法的な婚姻関係はないんです。それをこれから変えていきたいと活動しています。
増:生命保険の受取人になれるようになったけれど、法定相続人にはなれない。男女のカップルと同じことができるように、もう一歩、進めていきたいんです。
東:いまG7の中で同性パートナーシップに法的な国の保障がないのは、日本だけですから。
――二人は13年に会社を立ち上げ、LGBT理解のための研修や講演で全国を飛び回っている。
増:「LGBTへの対応をやりたいけど、何から始めていいかわからない」という企業からの依頼が多いです。「LGBTが安心して働くためにはどんなことが必要か」をお話しし、具体的な策につなげていきます。
東:でも講演やオンラインサロンの声を聞くと、特に地方のLGBTの方は「誰にもカミングアウトできない」って言うんです。本当に苦しい状況を聞くので、心が痛みます。
増:「自分の周りにLGBTなんていない」と、話を聞こうとしない人もいる。でもその人の周りにも確実にいるはずなんです。日本の4大名字、佐藤、鈴木、高橋、田中を合わせた数よりも割合は多いんですから。
東:その人の無理解が、周りの誰かを傷つけてるんじゃないか。そう思うと悔しくて。この一人が変われば、もっといろんなことが変わるのになあって。
増:でもそういう人に会うと、「まだまだやるべきことはある!」と、闘志がわきますね。
東:それにLGBTの問題だけではないんです。講演に行くと、「自分は子どもが産めないけど、小雪さんの話を聞いて『それでもいいんだ』と思えた」とか、「女性の生き方にはいろんな選択肢があるとわかった」と言っていただくことも多いんです。どれだけこの世の中が生きにくく、この人はどれだけ傷ついていたんだろう、って思います。
増:日本は特に規範や同調圧力が強いですからね。男性だって「男らしさ」を求められて苦しんでいる。
東:「こうあらねばならない」「これが普通」とかね。
増:その殻を破れたときの解放感、肩の力が抜ける感じを多くの人に知ってほしいんです。一人ひとりは違って当たり前。みんながその人らしさを生かして交じり合う。そんな社会がいい。
東:「自分らしく生きる」っていうことは本当にプライスレスですから。
――今年は妊活も経験した二人。“ふうふ”の形は、さらに進化するかもしれない。
増;いま妊活はちょっとお休み中なんです。でも子どもは欲しいと思っていて。
東:周りに女性同士で精子提供でできた赤ちゃんを育てているカップルもいます。
増:プライベートでも仕事でも一緒になって、逆にケンカもしなくなったね。
東:ひろこさんも大人になったからね。
増:私はもともと大人なの。
東:うそだあ!(笑)