シリーズ「境界を生きる」は今回、同性愛者が直面する厳しい現実や新たな動きを4回にわたり紹介しました。どうしたら当事者たちが、もっと生きやすくなるのか。ゲイ(男性同性愛者)であることを公言している米国の大阪・神戸総領事、パトリック・J・リネハンさん(60)と、東京都豊島区議の石川大我さん(38)に聞きました。【丹野恒一】
◇「君は独りじゃない」 存在、発信し続けて竏停・大阪・神戸米国総領事、パトリック・J・リネハン
竏停・同性愛を取り巻く日本の状況を、どのように感じていますか。
◆ 米国の30年前の状況に似ています。当時の米国では、ゲイはテレビのバラエティー番組で「オネエ言葉」をしゃべり、ばかにされながら笑いを取る役目でした。映画俳優や女優に、当事者にとって生き方のモデルになるようなゲイもレズビアンもいませんでした。でも、今は違います。
竏停・なぜ変わったのですか。
◆ 例えば政治家では、映画にもなり有名なハーベイ・ミルク氏が77年にゲイとして初めてサンフランシスコ市議になり、10年後には連邦下院議員のバーニー・フランク氏がカミングアウト(告白)した。そうやって後に続く人が出てきた。かつて、バスの座席が白人と黒人で分けられていた時代、それに抵抗して逮捕された女性がいましたが、それと同じです。1番目になるのは難しいが誰かがその勇気を持たなくてはなりません。
竏停・けれど、カミングアウトは難しい。
◆ 多くの日本の同性愛者が、自分を隠し、異性愛者だとうそをつきながら生きていることは知っています。地方ではサポートが少なく、より困難だということも理解しています。隠すのも、生きるための一つの方法であり、カミングアウトを「すべきだ」と言うつもりはありません。
竏停・米国では若い同性愛者の自殺が後を絶たない。日本でも同じ指摘があります。
◆ とにかく「君は独りじゃない」と伝えたい。同性愛を理由に差別されたり、いじめられたりした時、助けてくれる教師、家族、隣人、親戚、どこかに誰かがいる。「助けて!」と手を伸ばす勇気だけは持ってほしい。
竏停・子どもが同性愛者だと知った時、親はどうすべきでしょう。
◆ 決して言ってはならないのは「なぜ?」という言葉です。
私には一卵性双生児の兄がいます。一緒に育ち、同じ服を着て、同じ大学で学んだ。しかし、兄が好きになったのは女性で、私は男性だった。つまり「なぜ?」には意味がない。「ただ、そうなのだ」としか言えない。それよりも親は、子どもが何を感じているのか、何を望んでいるのか、どんな将来を夢見ているのかに気を配ることが大切です。