1/境界を生きる:同性愛のいま 「気持ち悪い」に自分偽り
◇教師、友人からも偏見や差別 苦しさ吐き出せる場必要



 男性は女性を愛し、女性は男性を愛するもの竏停・。「異性愛」を前提とした社会の中で、同性愛者は時に差別の対象とされ、自分の本当の姿を偽ることを強いられてきた。生きづらさを抱える人がいる一方、彼らを取り巻く状況に、ここへ来て変化の兆しも見えてきた。【丹野恒一】



 「同性愛者って気持ち悪いよな」



 神奈川県に住む高校2年生の七海さん(17)=仮名=は、中学3年時の保健体育の授業で男性教諭が薄笑いを浮かべて発した言葉が、今も耳に残っている。



 授業のテーマはエイズ。レズビアン(女性同性愛者)の七海さんは、軽い気持ちで「同性愛者も性感染症になりますか」と質問した。



 「なると思うよ。それにしても同性愛者って……」



 残酷な言葉が返ってきた。



 それまでは友達とのおしゃべりでも「男の子より女の子の方が好き」と自然に話せていた。だが、あの一言で「私は『気持ち悪い』と思われる種類の人間なんだ」と思い知った。授業が終わると、こらえていた涙があふれ出した。



 女子の友達が好きな男性の話題で盛り上がると、いたたまれなくなる。「芸能人で好きなのは誰?」と聞かれるのも怖い。一瞬でも戸惑ったら変に勘ぐられる、と思ってしまうのだ。「松山ケンイチさん!」。即答できるよう、あらかじめ決めてある。でも、うそで覆い隠した自分が段々嫌になる。



 ゲイ(男性同性愛者)で法政大3年のマコトさん(23)は、小学3年の時に同級生に「オカマ」と言われたショックで、卒業直前まで不登校になった。中学では一番の友達と思っていた男子生徒の「女っぽいくせに」という言葉が胸に刺さり、半分は不登校に。高校時代は「いっそしゃべらなければいいんだ」と、人間関係を拒絶して乗り切った。



 大学では友達も恋人もできた。でも「彼氏とデートした」とは、やはり言えない。いちいち「彼女と」と言い換えるのに疲れ、教室から足が遠のいた。1年留年した。



    ◇



 「人を好きだという気持ちを友達と共有できれば、自分をより高められる。同性愛の子どもたちはそれができない」



 横浜市で性的マイノリティー(LGBT)向けのコミュニティースペース「SHIPにじいろキャビン」(http://www2.ship-web.com)を運営するNPO法人「SHIP」の星野慎二代表(53)はため息をつく。



 性的マイノリティーの中で、同性愛の人たちは性同一性障害以上に、強い偏見や差別にさらされてきた。SHIPは高校生や教職員にLGBTを理解してもらう出張授業をしているが、学校側の依頼は「性同一性障害について」が圧倒的に多い。
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