玄関には、英語で書かれた結婚の証しが飾られている。女性2人が暮らす大阪府内のマンション。アキさん(31)とマリさん(30)は一昨年、同性婚を認めるカナダで式を挙げ、証明書を手にした。「公的に認められる喜びを肌で感じたかった」と口をそろえる。
憲法24条は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」と定める。日本で同性の結婚が認められるようにするには、この条文を変えなければならないという主張もある。
アキさんは「同性愛が想定されていなかった時代にできた憲法だから、性別の表現がぼんやりしている」。マリさんは「『両性』の縛りをなくし、『個々』にしてほしい」と憲法改正を望む。
大学4年生で知り合い、交際。同居は7年になる。マリさんは、人事担当者と直属の上司だけにカミングアウト(告白)した。福利厚生面で、家族として扱ってもらうためだ。別の会社に勤めるアキさんは打ち明けていない。男性中心の社風で「ばれたら怖い」との感情が先立つからだ。
生命保険の受取人には互いになれない。偏見だけでなく、実生活で多くの壁がある。「性の話ではなく、人権の問題と考えてほしい」。アキさんは訴えた。
憲法制定時に想定されていなかったのは「環境」も同じだ。アスベスト(石綿)健康被害の支援団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」会長の古川和子さん(65)=堺市=は2001年、夫幸雄さんを60歳で石綿による肺がんで亡くした。労災認定されたが、「企業活動で環境が悪化し、命を落とした人が大勢いる。戦後の発展の陰で企業が個人より優先された」と指摘し、「公害の被害者を守るため」、環境権が加えられるよう、改憲を望む。
ただ、マリさんらも、環境権を訴える古川さんも、改憲にもろ手を挙げて賛成しているわけではない。兵庫県稲美町の元町議、山本利勝さん(92)にも、今の改憲論議は「政治家が軽い気持ちで議論している」と映る。現行憲法へのこだわりは、2歳離れた弟工(たくみ)さんを戦争で失った思いと切り離せない。
山本さんは「お国のため」と海軍を志願、1942年末、呉海兵団に配属された。43年に工さんも機関兵として入隊したが、上官が連日、木刀で弟を打ちつけるのを目の当たりにした。見かねて「弟を乗艦させて」と訴えた。