ロシアの国家会議(下院)は6月11日、未成年者に対して同性愛を助長する「プロパガンダ」と、宗教信者の感情を害する行為を禁じる2つの法案を可決しました。
まず、メディアやインターネットを使って未成年者に対して同性愛を助長するような「プロパガンダ」を行った者は10万ルーブル(約30万円)以下の罰金、団体は100万ルーブル(約300万円)以下の罰金と90日以下の業務停止処分を科される可能性があります。この法律は外国人も対象にしており、メディアやインターネットを使って同性愛プロパガンダを流した外国人は10万ルーブル以下の罰金と15日以下の拘留を科された上、国外退去処分を受ける可能性があります。なんと、この法案は、1人の反対も出ず(棄権は1票ありましたが)全会一致で可決されました。
それから、もう1つの法案は、「社会に対する明らかな冒瀆の表明と宗教信者の信仰心を害することを目的とした公の場での活動」を行う者に1年以下の禁固刑と30万ルーブル(約89万円)以下の罰金を科すというもの。これらの行為を礼拝施設で行った者は、3年以下の禁固刑と50万ルーブル(約148万円)以下の罰金が科せられます。この法案は、賛成308票反対2票で可決されました。
下院で可決された法案は、今後、上院を通過して最終的にプーチン大統領が署名すれば法律として成立することになります。
採決に先立ち、下院の前では数十人のゲイやレズビアンがキスのデモンストレーションで抗議活動を行いましたが、それよりも多い数百人のアンチゲイ活動家(宗教関係者など)も集まり、彼らに対して卵を投げつけるなどしました。また、罪のないゲイの方が警察に暴行される場面もありました
ロシアは今年、同性愛が非犯罪化されてから20周年を迎えました。同性愛団体は5月25日縲?26日にパレードと集会を開催しようとしていましたが、今回も当局から開催禁止を言い渡されました(これまでにも何度もパレードが弾圧され、参加者が暴行を受けて流血したり、逮捕されたりしてきました)
このパレード弾圧と政府の反同性愛法推進がニュースになった途端、ゲイ男性が殴り殺される事件が起きました。
5月9日、悲劇はロシア南部のボルゴグラードで起こりました。23歳のゲイの若者が友人たちにカミングアウトしたところ、その直後、肛門にビール瓶をねじ込まれ、服に火を放たれ、最後は石で頭を殴られ…絶命したのです。
このあまりにもむごい殺人の犯人たちは、警察に拘束されたものの、個人的な怨恨による普通の事件として処理されたと見られています。
ロシアでは、他の欧米の国々のように同性愛者への暴行を憎悪犯罪(ヘイトクライム)と見なして厳罰に処するということを行っておらず、こうした同性愛嫌悪に基づく犯罪を示した公的なデータも存在しません。が、LGBT約900人を対象に行った調査によると、約15%が過去10ヶ月以内に何らかの身体的暴力を受けたと回答したそうです。
ロシアの同性愛嫌悪の背景には、多くの男性が保守的な考えを持つタフでひたむきな男性像を理想としていることがあると言います。こうした男性たちは、プーチン大統領が初めて当選した2000年以降、同大統領の支持基盤の一部となっています。また、プーチン大統領は、ロシア正教会に倫理観の権威としての役割を与えようと、宗教復興も主導しています。そのロシア正教会のキリル総主教は今年1月、「同性愛は薬物依存や売春などと同様、ロシアにとって最大の脅威のひとつだ」とコメントしています。
ロシア国内で同性愛嫌悪が広がる中、今回の法案がLGBTの権利擁護活動を根絶やしにし、同性愛者への迫害を正当化する根拠とされる恐れがあり、現に残虐な殺人事件も起こっています。人権活動家や欧米各国の政府も今回の2法案を批判しています。
世界で最も急を要するLGBTの危機に対して行動する国際的な団体「ALL OUT」も全世界から署名を募っています。以下に署名文の日本語訳をご紹介します。ぜひみなさんも、ご協力ください。署名はメールアドレスを入力するだけの簡単なもので、すぐにできます。
「プーチン大統領へ
同性愛者への暴行を煽る政府のLGBTへの弾圧を中止するよう求めるロシア中の市民、私たちは彼らと共に立ち上がります。
私たちは、ロシアおよび世界中の指導者たちに、反同性愛法を廃絶するよう、そしてロシアのすべての人々が暴力や差別から保護されるように促すものです」